書評 * 郷右近 一馬『80歳からの人間力を最大限に発揮する生き方』

私は生き方の流儀として、〝余生を過ごしていること〟を強く意識している。

 

もちろん私は先日陰毛が生え揃ったばかりの30代だし、ようやくレジ打ちを覚えたバイトのようなフレッシュな社会人だし、その手のお店に行けばオムツをして赤ちゃん言葉で対応していただく事も辞さない、いわば人生の駆け出し者である。

 

よって、あくまでも余生を過ごしているかのような気持ちに余裕のある状態、すなわち〝余生モード〟を保つことが私の流儀といえる。

 

例えば、「どうしても夜の首都高を時速190kmで飛ばしたい。盗んだ車で」というような人生における大きな決断も、「余生なんだから思い切って実行しちゃおう!」と前向きに考えられる。また、職場で急を要する仕事を振られたとしても「今日余生なんで勘弁してもらえませんか?」と答えると「あ、こいつダメだ」という判断をされ、その手の仕事のパスが来なくなる。このように心に余裕を持った生き方は、人生の自由度を増してくれるのだ。

 

さて、本日ご紹介する本はそんな余生モードとは真逆の価値観を提示する一冊、『80歳からの人間力を最大限に発揮する生き方』だ。

 

著者の郷右近 一馬(ごううこん かずま)氏は、東京医科大学の現役教授でありながらアメリカンフトッボールリーグ〝NFL〟の『ダラス・カウボーイズ』でクォーターバックを務めるプロ選手という異色の肩書を持つフードファイターだ。本書は、プロフの最後に取って付けたように書かれたフードファイターが本業という現在84歳の郷右近氏が、その溢れる人間力の源となる健康生活を紹介する内容になっている。

 

正直に言えば「そんな事あるか?」と思ってしまうようなエピソード(例えば健康の基盤は足にあると考えあえて両腕を斬り落とし、草むしりや腕相撲はもちろん、手マンも足でしているという話など)もいくつかあるが、実際にダラス・カウボーイズの公式HPで天下一品の〝こってり〟を16杯たいらげる義手の郷右近氏を見ると、「この人ならできる」と感じてしまうのも事実。

 

私の好きなエピソードは、お金は人間の欲望を吸収するエネルギー体であると考え、紙幣を食べる事によって人間力を高めようとする比較的現実的な話だ。キャバクラで席にも着かずキャバ嬢と視線も合わせずに1万円札6000枚分を丸飲みしてサッと帰ったというこのエピソードは、のちに『六本木で一晩で6000万使った』と夜の世界に郷右近氏の名を轟かせ、大学側と若干揉めたという。

 

他にも愛犬を散歩させる時は自らの首にリードを付けて四つん這いになり、犬を置いて小便をひっかけながら町内を練り歩くといった話が続くが、これら120にも及ぶ全ての挿話が80歳を超えて唐突に始めた事だというのだから、犬だけではなく読者も驚きだ。

 

私のように余生を生きるかのごとく盗んだ車で悠々と首都高を走る生き方もあれば、本書『80歳からの人間力を最大限に発揮する生き方』を著した郷右近氏のように〝刺激を与えて脳細胞を活性化させる〟として農業用トラクターで首都高を逆走する生き方もある。NFLファンとして、また超高齢化を迎えるこれからの日本社会の一員として、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

 

 

 

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