史上最大の戦い 〜前夜〜

夜が明ければいよいよボクシング史上最大にして最高の一戦、フロイド・メイウェザー VS マニー・パッキャオのゴングが鳴る。


俺はこのメガファイトが発表された2月下旬から一睡もせず、こうして試合前夜を迎えている。すでに体力は限界に近づき体重も25kgほど落ちたが、この世紀の一戦を見ずに死ぬ事などありえない。俺はこの試合の行方を見届けた後、予約してあるアイスの棒で出来たお墓の下へ向かうつもりだ。


さて、試合展望だが、結論から言うとやはりメイウェザーの判定勝利は揺らがないと思う。いつも通りのシャープで完璧なボクシング・レッスンをフルラウンド徹底するだろう。確かにメイウェザーは誰もが認める天才中の天才だが、俺は彼のスタイルは嫌いだ。ボクシングはもっとエキサイトなものであるべきだ。試合を支配しきっているのに倒しに行かない、決してリスクを背負わない彼のディフェンシブなボクシングは、テクニックに驚く事はあっても感動する事はない。とは言え、オフェンスも神懸かってはいるのだが……。上手すぎるが故に派手さに欠けるのがメイウェザー先生の難点なのである。


対するフィリピン人ボクサーのパッキャオは、とにかく見る者の心を高ぶらせる非常に好戦的なスタイルだ。フライ級から始まり脅威の6階級制覇。飛び越した階級を数えれば実に10階級分のウェイトアップで成功を収めるという、ボクシングの歴史においておそらく今後2度と現れないであろうアジアの英雄である。


激しい出入りや上下左右から緩急つけて繰り出される怒濤のコンビネーションで多くのスター選手をKOで沈めてきたパッキャオ。ド派手な攻撃はリスクを負う事にも繋がり、最近はライバルとして4度拳を合わせてきたファン・マヌエル・マルケスの強烈なカウンターで沈むなど不安要素もある。メイウェザーが同様の隙を見逃すハズはなく、熱くなり過ぎて突っ込むとマルケス戦の悪夢再来もあるかもしれない(俺はかなり危ないと思っている)。


大方の予想通りメイウェザー有利は間違いないと思うが、しかしパッキャオにも1〜2度チャンスが巡ってくるのではないか。『パッキャオならなんとかしてくれる』……そんな、なんだかドラゴンボールの悟空に対するブルマのような気持ちにさせてくれる男なのだ。


注目すべきはコーナーに追い込んでからパッキャオがどう打ち込むのか。これまで多くのボクサーがダメージを与えられずに悶々としてきたメイウェザーのコーナータイム。パッキャオ相手にもあの魔法のようなディフェンスをやってのけてしまうのか、あるいは……!?


ミゲール・コットの攻めで鼻血を出したメイウェザー、マルコス・マイダナのプレスに若干手を焼く姿も見せたメイウェザー……。と考えていくと、「意外とパッキャオいけるんじゃね?」とか思えてくるから不思議なものだ。


で、フタを開けてみたら大凡戦てのはよくあることで……頭の中でぐるぐるグルグル試合を展開させている今この時間が、このファイトこそが、最高の一戦なのかもしれない。もちろんそうなって欲しくなんかないけどね。頑張れパッキャオ!!!でいきましょう。