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回転寿司の憂鬱

夕飯を一週間我慢して回転寿司へ通うのが、月に一度の俺の楽しみだ。我慢に我慢を重ねた空腹状態で食う寿司の美味さと言ったらない。思わず「これは空腹じゃない時でもそれなりに美味いのではないか?!」と感じてしまうほどである。


ところで、好奇心から陰毛を丁寧に剃り上げた状態で街を歩いていると、回転寿司店が非常に多いことに気がつく。


事実、日本の首都である新宿はスシロー、スシロー、くら寿司、スシロー、かっぱ寿司ヨドバシキャメラ、スシローといった具合に、回転寿司店で構成されているかのような街並みであり、外国人観光客が「Fuckin' crazy!!!!!!!!」と頭を抱えて連呼する姿を度々見かける。ちょっとした地獄みたいな光景だ。


これだけ回転寿司店が多いと業界の競争もかなり激しいようで、今日入った店では寿司ではなく、なんと店長や店員がベルトコンベアに乗って回っていたので驚いた。


手を湿らせ微笑しながらベルトコンベアで運ばれて行く店員たちの姿に言葉を失なっていると、店長が俺の前を通過しながら「誰に握ってもらいたいか、私たちの中から自由にお選びください」と声をかけてきた。


席に着き、俺は悩んだ。


店員の矢沢さんは一番精悍な顔つきをしているが、「そもそも寿司は顔で選ぶものなのか?」という疑問が残る。かと言って同じく店員の竹中さんは微笑みもぎこちなく、どこか頼りない印象だ。やはりここは無難に店長の清水か…?! 頭を抱え、ベルトコンベアで次々に目の前を通過して行く調理服姿の男たちを眺めていると、突然スーツの男が流れてきたのでド肝を抜かれた。


スーツの男は口の端をゆっくりと上げ、「わたくし、エリアマネージャーを務める津田と申します」と一礼するではないか!!!!


その瞬間に俺の心は決まった。



津田を指名だッ!!!!



流されていくエリアマネージャーに向かい小手調べに「エビ、一丁ッ!!!」と軽快に叫ぶと、津田は「かしこまりました」と目を細めながら人差し指と中指を揃えて俺に向かって軽く振った。自信に満ちた男がする仕草だ。


べルトコンベアに運ばれ、どんどん小さくなっていく津田。半周して対面のカウンター側へと回ってしまったため、俺の席からは奴の背中しか見えない。


するとここで「エビをご注文のお客様、35番のお皿をお取りください」と店内放送が流れるではないか! 皿を取る?! エビを注文したのは俺しかいない……! だが、この店は指名した人間が寿司を握るシステムじゃないのか!? 待っていると、たしかに店員の矢沢と竹中の間にエビの乗った皿がポツンと流れてくる。


俺はおそるおそる皿に手を伸ばし、後から流れてくるはずの津田を待った。


醤油を小皿に垂らしエビに手をかけて待っていると、ようやく津田が流れてきた。「お、おい…!? あんたが握ってくれるんじゃなかったのか?!」悲鳴にも近いような声で俺が叫ぶと、津田は微笑したまま「わたくしが握ったものに間違いございません。当店では効率化を図るため、各人があらかじめ握っておいた寿司をストックし、ご希望のお客様へ配送するシステムを採用しております」と答え、自信に満ちあふれた表情で再び俺の前を通り過ぎて行った。


これは津田が握ったエビ……それは間違いない。


だが、しかし……



「いつ握った寿司なんだよッ!!?」



涙を浮かべながら腹に収めたエビは、少々痛んだ味がした。



〜Fin〜