俺がチンピラ男に連れ添うダメ女だった頃

俺には、チンピラ男に連れ添うダメ女だった時期がある。


だがそれは、性転換して今は男として生きている……とかそういう意味ではない。


昔パチンコ好きの友人がいて、「お前が一緒にいると絶対当たるんだよ! 見てるだけでいいからそばにいて!!」と頼み込まれて彼の後ろでぼーっと突っ立っているというのをよくしていた。


ただひたすら人の後ろに立ち続けるというのは、普通なら馬鹿馬鹿しくなってすぐに飽きてしまう行為だと思う。しかし俺は妙な連帯感、いや、使命感を持って彼の背に立ち続けた。それは彼が実際にもの凄い確率で大当たりを引いていたからに違いない。パチンコを打っている時の彼の背中はとても大きく、力強く見えた。


あれは一種の共同作業であり、おかしな例えだが魔法のようなものだった。俺の存在が彼を強運の持ち主に変えているのだ……そんな根拠不明の自信が俺を彼の後ろに立たせ続け、結果として俺は彼が勝ち取った換金額の一部を貰っていたのだ。


しかし、彼から受け取った万札を財布に入れる度、不思議とその魔法は解けた。

自分がなんだかチンピラ男に連れ添うダメ女にでもなったような、気怠い錯覚に陥ったものだ。


その彼に久しぶりに会い、飯を食った。

パチンコ屋に通っていた当時の話を持ち出すと、彼は寂しそうな顔で「あの業界ももう終わりだよ。数年くらい前から全然(玉が)出ない」とボヤいていた。今ではパチ屋に行くこともほとんどないらしい。


「俺が後ろで見守ってても、出ないかな…?」

驚くことに俺はまったくの無意識でそう口にしていた。


「……見てるだけでいいからそばにいて、か?」彼はそう言って口の端をにやりと上げる。
ほんの一瞬だったけれど、彼の瞳がギャンブラーだった頃の狡猾な眼差しに戻ったような気がした。

その瞳に宿った輝きに俺は息を呑み、こくんと小さく頷いた。

信じられなかった。俺は、いまだにこの男の背に立ちたいのか……!?


「無駄だよ。俺もう足を洗ったんだ」

そう笑う彼に安堵する一方で、俺は心の一部が抜け落ちてしまったような、言いようのない喪失感を覚えた。


「また冬にでも会おうぜ」そう言って手を挙げ、人ごみの中へ混じって行く彼の背中は、今ではもう他の誰の背中とも同じに見えた。

同様に、俺にももうあの頃の魔法の力は宿っていないのだろう。


俺には、チンピラ男に連れ添うダメ女だった時期がある。


毎日が同じことの繰り返しだったのに、不思議な魔法に彩られ輝いていた、ダメ女だった時期がある。


〜終〜