こんな私でも、合コンに狂っていた時代があった。
正確に言うと合コンをしたくてしたくて狂っていたわけだが、人間の知り合いがあまりにも少なく誰からも誘われないため、いつしか「これはもう自分が主催するしかあるまい…」と考えるようになった。今回はそんな当時の悪戦苦闘の日々を綴ってみようと思う。
*
合コンを主催するにあたり問題になるのはもちろん参加者選びだった。
私の数少ない女友達を頼ってみようと連絡を取ってみたところ「この電話番号は現在使われておりません」とのアナウンスが流れたため、「なるほど…現在は使われていない、か……しかしこの番号が再利用されるまで待ってなどいられん。彼女に頼るのはやめだ」といった感じで立て続けに3人ほどの女性のアドレス帳を『現在利用停止中』に編集したところで何故だか涙が止まらなくなってしまった。
そのようなわけで、私はブスで性格の悪い女友達を頼ることを完全にあきらめた。
やはり頼りになるのは男友達だ。そう考え直し、嗚咽が治まるのを待ってから私は親友にメールを送ってみた。
『合コンに狂っている。タスケテクレ』。
するとこんな返事が返ってきた。『勝手にやってろ』……友情とはかくも儚いものなのか? 合コンが開けないから頼っているのに、勝手にやれとは何という非人道的対応だろうか。その後、数人にも同様のメールを送ってみたのだが、返ってきたのは『なら参加するな』だの『ワンチャンあった?』だの、会話が成立すらしない意味不明な返事ばかり。こいつらは人とまともにコミュニケーションを取ることもできないのだろうか?
そのようなわけで、私は低能で酷い体臭のする男友達を頼ることを完全にあきらめた。
友人連中が一切役に立たないと分かった私は窓から携帯を放り投げたのだが、その瞬間にあることに思い至った。
そもそも「合コンの誘いが来ない」ことが根本的な問題ならば、合コンの誘いが来る携帯を持てばいいのだ!!
私は早速行動を開始した。
*
実に二ヶ月もの間、計画はうまくいかなかった。
それはそうだろう。携帯電話を落とすおっちょこちょいイケメンなど、そう簡単には見つからない。
私は電車内でイケメンを見つけてはうっかり携帯を車内に落として下車しないかと、毎日山手線を張り続けていた。
イケメン=リア充の携帯なら絶対に合コンの誘いが来る…!
誘われれば、こっちのものよ……!!
山手線1100周目を迎えた頃、ついにそのチャンスは訪れた。
電車内で眠りこけるイケメン、彼の着ているジャケットのポケットから半分以上顔を出している携帯。少しこづけばポケットから携帯が落ちるのは間違いない……幸い人の少ない時間帯だ。
やるしか……ないのか……
決意を固めた瞬間、電車が強めのブレーキをかけたのか大きく揺れた。
「好機!!!!!!」
車内の揺れにより携帯はポケットから滑り落ち、座席の上へ落ちた。
イケメンが目を覚ます。気づくなよ…絶対に気づくなよ……!!!
私は祈った。
それは恐ろしく純粋な祈りだった。
そして、
祈りは通じた……
イケメンが座席に落ちた携帯電話に気づかぬまま、新宿駅のホームへ降りる。
ゴキブリでもこんなに醜く素早くは動けないという汚らわしい動作で私は携帯を拾い上げ、「携帯を落とした人に届けてあげなきゃっ!」といったわざとらしい演技を駆使してホームへ飛び出し、イケメンとは逆方向へ全力疾走した。
計 画 通 り ……
息を切らせて飲む缶コーヒーの味は格別であった。
*
『おつかれー。タクヤ土曜の夜暇? 美香ちゃんから合コンの誘いきてるぜ』
私は初めて目にした合コンお誘いメールに涙しながら、「シンヤ」なる人物へ「俺、タクヤ!!暇です!!! お誘いありがとうございますッ!!!」と即返信した。すぐさま『酔ってんの?(笑 詳しいことはまた連絡するわ』と返事がきて私は友情というものを肌で感じると共に、そのメールを保存登録したのであった。
人生初の合コンに、参加できる……!!!
私は興奮のあまりその晩は眠れなかったことを覚えている。
*
合コン当日、私はある問題を抱えていた。
メールの履歴などをひたすら読み漁り、「タクヤ」がどんな人間なのかは大体予測がついた。
電話はスルーを決めていたものの、タクヤの恋人との連絡はメールでそつなくこなし、もはや私こそがタクヤなのだという自信も身に付いていた。しかし、「もしも会った瞬間に自分がタクヤではない全くの別人」だと気づかれたらどうするのか?
「俺はタクヤだがタクヤではないんだ……
だとすると俺は一体、誰なんだ……?」
すでに私の精神は限界ギリギリのところまできていた。
合コンに参加するのにこれほどのメンタリティが必要だったなど聞いていない。
おそらく合コン経験者というのは、己を偽ることに卓越した能力を持ち合わせているのだろう。
体の震えを抑えつつ合コン会場へ到着すると、タクヤの友人「シンヤ」とおぼしき人物と他二人の男、そしてギャル達の姿があった。私は改めて写メをチェックする。間違いない……奴がシンヤだ……!!
私は満面の笑みを浮かべ、
「よお!シンちゃん!おっ久〜ww」
とフランクに声をかけながら彼らに近づいていった。
呆気にとられたシンヤとギャルたちはしばらくの間、玄関マットの上で絶命したゴキブリを見るような目で私を見つめていたが、やがてシンヤが
「お前……誰だ……?」
と顔を引きつらせながら聞いてきた。
その後私がリア充たちに袋叩きにあったのは、
言うまでもない。
〜 完 〜 (※念のために言っておきますが、この物語はフィクションです)