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ハイスクール・アウトレイジ

物語・短篇 ノスタルジー

俺が通っていた高校は、典型的なヤンキー校だった。


放課後に不良たちが帰宅しようとする先生の車を囲み、ルーフやボンネットをバンバン叩く光景は日常茶飯事だったし、校内のいたるところにビールや焼酎、ジンの空き瓶が転がっており、校舎は汗と酒の臭気が入り混じったすえた臭いがしていたものだ。


かくいう俺も当時ワルをやっていたのだが、俺はどちらかというとネクラで陰湿なタイプの不良だったため、跳び箱の踏切板にオイルを塗り込んで体育の時間中の事故を誘発するといった、地味な悪行にいそしんでいた。結果的に3名の骨折者と1名の死者を出してしまったことに対し、今ではもちろん反省もしている。


そんな俺たちワルにとって、文化祭は自分にどれだけ強力なバックがいるかを示す、絶好の機会だった。みな、地元や他校のワル仲間を連れてきて「俺は校外でもこれだけ悪そうな奴らとつるんでるんだぜ」というアピールをするわけだ。さらしを巻いたワルたちが瓶ビール片手に文化祭のたこ焼き屋に長蛇の列をつくる様は圧巻であり、俺はそんな不良集団に強い憧れを抱いていた。


「俺もワル仲間を引き連れて、一目置かれたい…!!」


そこで俺は地元の友人の力を借りるため、田崎と吉岡に声をかけた。2人だけでは心もとないが、これが俺に呼べる友人の限界人数なのだから仕方がない。量より質、それはヤンキーも同じだ。正直、田崎も吉岡もワルとは程遠い一般ピーポーだが、要は「あいつ、あんなにワルそうなダチがいんのかよ…?!」と思わせることに成功しさえすればいいのだ。ワルなんてナメクジのタマキン程度の頭しかないのだから、騙すのは簡単だ。


「とにかくヤンキーって感じの格好をして、うちの高校の文化祭に来てくれ!!」

俺はそう田崎と吉岡に念を押した。



そして迎えた文化祭当日。煙草の煙が充満し5m先も見えない校内は、ヤンキーが連れてきたヤンキーで溢れ返っていた。まさにワルのバーゲンセールだ。


「やっぱリュウジ先輩は格が違ぇよなぁー!」「今年はすげぇ数連れてきたなぁ、ざっと見て50人はいるぞ」人だかりが出来ているほうへ目を向けると、校内でも随一のワルと恐れられる一学年上のリュウジさんとその取り巻きが酒瓶を回し飲みしながら、枕ほどの大きさのあるブロック肉を食っていた。おそらく、国産の和牛サーロインだろう。それを生で喰らってやがるのだ。さすがにトップレベルのヤンキーは頭も体の中身も違う。


「う、うわああぁぁ!!血!血!!」


突然、叫び声が響いた。
声のするほうを振り返ると、胸から血を流して生徒が床に倒れているではないか……!
よく見ると、その胸には矢が刺さっている。

すぐそばで「ドスッ」「ドスッ」という鈍い音が続いて響き、さらに2名の生徒が床に倒れ込んだ。


「ど、どうなってんだよ!?」「矢?! 矢が刺さってんのかこれ!?」

「救急車呼べ!救急車ッ!!」


悲鳴と怒号が響く校内。何が起きているのか分からぬまま、俺は矢が飛んできたほうへ目を凝らした。

白い煙の壁の向こうから、ゆっくりと人影がこちらへ近づいてくる……


ヒュンヒュンと何かが俺の頬をかすめた直後、さらに数名の生徒がその場に突っ伏した。
俺は頬にじんわりと熱い痛みを感じる。手を当てると、ぬめっとした感触がして驚いた。血だ……
足音が徐々に大きくなる。その場にいた全員が息を呑み、煙の向こうを凝視する。


静まり返る俺たちの前に現れたのは、ボウガンを手にした迷彩服姿の男と、巨大な肉切り包丁をぶら下げて笑う、血まみれのエプロンを付けた男だった。


俺は身震いして二人をもう一度見た。



間違いない……


田崎と吉岡だ。



「どうだ? クロスボウガンの威力、すげぇだろ?」と田崎が焦点の合わない目で俺に笑いかける。
「ボウガンで仕留めた奴らの解体は任せろ」と吉岡が肉切り包丁片手に舌なめずりする。
「お前らのヤンキーのイメージどうなってんだよッ!?」そう叫ぶ俺の目玉は今にも飛び出しそうだ。


「おい、あいつらお前の連れか?」
肩を掴まれたので振り返ると、額のド真ん中にボウガンの矢を刺したまま、リュウジさんが俺を睨みつけているではないか!? 呼吸は荒く、額と口の端からは絶えず血が流れ続けているが、意識はハッキリしているようだ。
まったく、何から何まで狂っていやがる……。


「連れなんか? お前と、あの二人、まとめて殺していいんか?」
リュウジさんは再び、ゆっくりと時間をかけて俺に尋ねる。


そんなワケで、俺は歯をガッチガチ鳴らしながらこう答えた。


「いえ、赤の他人です」


〜完〜