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今はもうない 〜自慰 of Life〜

インターネットという裸のおネェちゃん見放題装置が普及する以前の時代、己の下半身の奴隷となった思春期の健全なボーイズたちは、スケベ雑誌やエロティック・ビデオを求めて隣町へ遠征するといったことを日常的に行なっていた。


家の近所や学区内でそのようなエロ物資を探し回るのは、家族や同級生に目撃される可能性が高く危険だ。不思議なもので、性欲に支配されたムラムラスチューデントたちは同族にとても厳しい。古本屋でスケベ雑誌を眺めているところを同級生に目撃されたが最後、翌日から学校で「あいつ、勃ち読みしてたんだぜ……」と後ろ指をさされ青春時代を送ることになったものだ……。


そんなわけで、性への好奇心いっぱいの若獅子たちは学校では「オナニー? ははっ、何それ? 俺、そんなモンにかまけてる暇ないッスから。受験受験!」という態度を取りつつ、放課後になれば教科書を3階の教室から放り投げ、すぐさま自転車にまたがり、己のスケベレーダーを信じて見知らぬ土地のエロトピアを開拓していたのである。まさに性の大航海時代、巨乳に痴女に女子高生、背伸びして人妻……それぞれの性癖に見合う財宝を求め、ピンク色のオーシャンをバタフライで突き進んでいたのだ。


しかし、高校に上がる頃辺りから、そんな孤高のスケベ道を極めんとする崇高な精神に背を向け、同盟を組む者たちが現れ始める。これまでの冒険で見つけた性のユートピアの情報をあっけらかんと公開、共有し、調子に乗って好きなAV女優について語り始める者たちがそれだ。一度外へ向けて開かれたスケベの扉はもう二度と閉じることはない。オススメの女優や作品はもちろん、己の性癖についてカミングアウトし情報を共有することの喜びを知った愚か者たちは、そのスケベネットワークをさらに拡大させていく……。


高校生の頃、こんなことがあった。


いつものように人目を気にしつつ身を屈めて忍び足でTSUTAYAの18禁コーナーののれんをくぐると、そこに中学校時代の同級生、K君がいたのだ。

「ウィィィ〜ッスwwww」と久々の再会に奇声を上げて喜ぶK君。よりによってAVコーナーで会うとは……と、動揺しながらも「ウィウィウィ、ウィ〜〜ッスwwWWww」と平静を装いながら答える俺。


K君が「おーい! アメリカ君いるぞ!!」と声を張り上げると、ギャル系棚や洋モノ棚の陰から「お久しブリィィィィ〜〜〜ッスwwWWWwwWWww」とH君やM君が姿を現した。その昂揚した様子から、彼らがAVパッケージを見ながら股間をたぎらせていたのが容易に想像できる。俺たちはAVパッケージの前では無力なのだ。聞くと、どうやら彼らはスケベネットワークを共有し、それぞれにレンタルした作品を「回し見」するのが毎度のパターンだと言う。なんという羨まし……いや、情けないシステムであろうか? 徒党を組んでリングに上がりやがって……こいつらにプライドはないのか? 


が、気づくと俺は彼らに「言葉責めが得意なAV女優を探しているのだが……ここら辺の棚で見かけなかったか?」などと、下腹部を熱くさせ前屈みになりながら神妙な面持ちで尋ねていたのだった。


AVの回し見……K君らのエロネットワークに衝撃を受けた俺は、すぐさま同志を募った。すると「いつかこんな日が来ることを夢見ていた」「ロリ系女優なら任せろ。データベースを作ってある」「関東で最もレズ作品に詳しい俺の力が必要なようだな……」「尿を顔にかけられるタイプの作品が好きなのだが、お前もそうだよな?」と、みな堰を切ったように自身の性癖をさらけ出し、ベストAVについて熱く語り、知りうる限りのピンク情報をすべて共有し、レンタルする作品の選定作業を開始したのである。それは個人プレーだったエロがチームプレーへと昇華した瞬間であり、いくばくかの性のプライドを捨てた瞬間でもあった。


今ではすべてが懐かしい……あの頃俺の股間を流れていた熱い血流も、「AV鑑賞会」で目撃した田崎君の信じられないほどえげつない形状の性器も、お世話になったTSUTAYA西八王子店も、八王子AVレンタル同盟も、今はもうないのだ……。



あれからどれだけの年月が流れたろうか?


最近ではインターネットの普及にともない、股間を怒張させて自転車にまたがり未だ見ぬエロトピアを求めて彷徨う中学生も減っていると聞く。そんなものはインターネットがクリックひとつで提供してくれる時代なのだ。かくいう俺も、朝昼晩、3度お世話になっている。一日に行なうどんなクリックよりも、スケベサイトへジャンプするためのワンクリックが一番夢があると言ってよいだろう。


だが、ときおり俺は思い出す。

チャリを飛ばし、一陣のピンクの風となって国道20号を吹き渡っていたあの日々を。

遠くの町でやたらエロ本が充実している古本屋を発見したあの感動を。


はたして、あの頃の情熱を俺は今も持ち合わせているだろうか?


「財宝は手に入れたかい?」


そう語りかけてくるのは、あの日の俺だ。




俺はいそいそと下着を上げ、スケベサイトをすべて閉じ、
ティッシュをゴミ箱へ放り、目を伏せてこう答えるだろう。




「まだ、旅の途中さ」と……



〜完〜