スケッチ

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昨年末は友人、知人との忘年会ラッシュであった。

社会人になってからは頻繁に会うこともなくなり、年に数回しか顔を合わせない友人や、それこそコロナの影響もあり数年ぶりに顔を合わせる仲間も多い。しかしどれだけ空白の期間があろうとも、会えば一瞬で心がくつろぎ、かつての付き合いに戻れるのが友というものである。

とはいえ、友人の江能君のように「ちょっと伸びたかなって」と苦笑しながら飲み屋で足の爪をパチンパチンと切り始めるのはいささか気が緩みすぎだとは思うが……。一方で、酔えば酔うほど難しい顔をして仕事の愚痴や不満をこぼす者も少なくない。

 

「上司のアイツは何も出来ない無能だ」、「部下のアイツがいつまで経っても仕事を覚えない」、「経理のおばさんが痴女過ぎて困る」といった調子で〝俺の会社のダメな奴〟トークが続き、しまいには〝俺の会社のダメなところ ベスト100〟みたいなのが始まったりする(まぁ、痴女過ぎる経理のおばさんの話は良かったが)。

なぜ久しぶりに会ってお前の会社の人間の話を聞かねばならんのだ、と私はダンボになっていた耳をチェーンソーで切り落としてしまったが、彼らは私の耳からビュービュー吹き出す血を目にしても〝俺の会社のクソ人間〟自慢を止めない。要するに、話がウケてるかどうかはカンケーない上に私の命が安過ぎるのだ!

 

そんな中、江能君の「俺さぁ、昨日デリヘル呼んだんよ。そしたら何の流れか、風俗嬢が元カレの借金の連帯保証人だって話をし始めてさ。話を聞いてたら俺、もうそんな気分じゃなくなっちゃって。マジで酷い男なんだわ、その元カレ。いや、彼女を待ってる間は俺、ピノキオだったんだぜ!? 股間ピノキオ!! グングン伸びて硬くなって…! でも、折れちゃったんだよ……で、缶コーヒー飲ませて、2時間分のプレイ代渡して帰らせたんよ。

たださぁ……こうも思ったんだよね。結果的に彼女は仕事をせずに賃金を得たワケだけど、もし、もしもだよ? もしも連帯保証人の話が嘘だったらって……そしたら嘘ついたのに彼女の鼻が伸びることはなく、むしろ俺のアソコが縮んだって事になるじゃん!?」というエピソードは本当に心に沁みた。私が望んでいたのはこれだったのだ!

旧友との空白の期間を埋めるのは、職場の嫌な奴トークではなく、こうした純真なヒューマンドラマでなくてはならない。 1年間かけて築き上げた仕事の愚痴よりも、昨日会った風俗嬢とのたわいない2時間のいかに魅力的なことよ! 言わばこれは江能君の人生のスケッチである。とりとめもないラフであるが故に、飾り気のない真実の自己が窺い知れるのである。

 

このように書いてくると、「じゃあ偉そうに言うお前は忘年会で何を話したんだ?」と思われることだろう。

 

もちろん私は仲間との再会の為に、私という人間が最もよく現れていると確信を持てる、とっておきのエピソードを用意していた。

 

私は、『先日見た雲の形がなんとなく猫に似ていた』という話を披露したのだ。

 

一切、ウケなかった。

 

-了-