読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Sweet 16 Blues

16歳の誕生日の朝のことだった。


俺はベッドの中でテンピャラの首筋の匂いや唇の柔らかな感触を思い出していた。初めてのキス。テンピャラの温かな吐息が舌の上で弾け、俺は一層強く唇を押し付け、舌を絡めた。ずいぶん長いこと俺たちはそうしていたと思う。やがて俺は我慢出来ずに彼女をベッドに押し倒した。


すべて昨晩に実際起きたことだが、実感はまだ湧かない。


とにかく、俺はついに男になったのだ。


昨夜の余韻にふけり俺がふたたび下半身に力をみなぎらせていると、勢いよくドアが開かれ、洗濯機の中に岩石を放り込んで回転させたような勢いで母親がベッドの前までずかずかと歩いてきた。


「起きなさああぁぁぁぁい! 勇者ペロ!
 今日はあなたの16歳の誕生日! 旅立ちの朝よ!」


俺は小さく舌打ちして布団を頭まですっぽり被った。
母はおかまいなしにアリゲーター電通の新社屋の壁面に叩き付けるような迫力で喋り続けた。
「前にも言ったように、あなたは世界を救う旅に出て消息を絶った勇者ポカパマズの息子! ポカパマズは言っていたわ! 自分にもしもの事があったら、息子に意志を継がせろと! だもんだから、あなたは今日旅立つの! 絶対よ!!」

俺が布団からちょいと顔を出し、
「親父が旅に出るなり新しい男をつくって家に住まわせたくせに……」
と言うと、母は顔を紅潮させて両手を広げ、詠唱を始めた。窓ガラスがかたかたと揺れ始める。まずい。
攻撃系最強の魔法、イナガドズンだ。


俺は慌ててベッドから飛び出すと同時に母の口を手で塞ぎ、「わかった、わかった! 荷物をまとめたらすぐに旅立つよ!」と言った。その頃にはもう家全体が派手に震え始めていたが、母が手を下ろすとようやく振動が静まった。10年以上前の話とはいえ、さすがはツイッターナ地方最強の魔法使いだ。母は窓を開けると「まずはお城へ向かいなさい。必要なものはすべて王様が用意してくれているそうよ」と言って微笑んだ。


俺はため息をついて、母の顔と窓の外に見えるアハアリン城とを交互に見やった。


まったく……最悪の誕生日だ。





お城に来たのはずいぶん久しぶりだった。
小学校の社会科見学以来じゃないだろうか?

城門の前に立つ赤い鎧の兵士に自分がポカパマズの息子であることを告げると、兵士は二度大きく頷いて俺を城内へと通した。

城内に入るなり四方を4人の兵士に囲まれて、俺はうながされるままに兵士と一緒にエレベーターに乗り込んだ。兵士たちはきつく口を結び、誰も何も喋らなかった。俺はiPodGRAPEVINEというバンドのニューシングル、「風の歌」を聴いていた。(絶賛発売中だ)


謁見の間に足を踏み入れるのは初めてだ。

俺は炎のような色の毛足の長い絨毯を踏みしめて、王の前へと進んでいった。


「よく来たな、勇者ポカパマズの息子、ペロよ!
 ポカパマズが消息を絶ってじきに半年になる……
 ポカパマズの安否は依然として不明だが、もう生きてはいまい!」

そこまで言うと王は一瞬しまったという顔をつくり、ぺろりと舌を出してみせ、隣に立っている大臣を杖でこのこのぉという調子で小突いて照れ隠しをし、
「……すまん、つい口が滑ってしまったようだ。
 とにかく! ポカパマズは死んだも同然!そこでだ!
 勇者の血を引くお前に、魔王アメリガーマゾ退治の旅へと出てほしいのだ!」
と声を張り上げた。


王が大臣にウインクをかますと、大臣は兵士たちに手伝わせて俺の前に宝箱をひとつ持ってきた。
ドスンという大きな音を立てて俺の目の前に宝箱が置かれた。かなりの大きさだ。
否応無しに俺のテンションが上がる。


「旅に必要なものはすべてその中に入れておいた! 気兼ねなく使うが良い!」
俺は王に深々と頭を下げ、いそいそと空箱を開けてみた。


中には鞘に「天馬龍神裂斬剣」と彫られた見事な刀と、図鑑でしか見たことがなかったどんな傷でも治してしまうというモチマミの粉が二袋、天空を駆けるドラゴンが描かれた立派な胸当て、元WBA世界ジュニアフライ級王者・具志堅用高が愛用したといういかなる攻撃も無力化するファウルカップ、そして市販の剣道の面が入っていた。


「す、凄い……! ありがとうございます、王様!」

王はでしょでしょーという感じで目をカッと見開いて足を放り出しながら手をパンパン叩き、しかしやがて虚ろな目になると、
「……ポカパマズには少し硬い先のとがった棒を一本手渡しただけだったからな……魔王城が橋を一本越えたところにあるせいか、ここアハアリン周辺の魔物は非常に手強い。あの装備でやっていくにはさすがに無理があったのだろう……」とつぶやいた。

「親父……」俺は親父が旅立った朝のことを思い出していた。
たしかに親父はちょっと硬そうな棒を一本持っていた。
まさかあれが武器だったとは……正直、俺にはヒノキを少々削った棒にしか見えなかった。


「さあ旅立つのだ勇者ペロ! 魔王城は橋を越えてすぐだ!
 子供の足でも徒歩15分とかかりはしまい!
 行ってまいれ!!」


と、唐突に大臣が叫び出したので俺も王様も驚いた。

俺は宝箱の中の装備を身につけるともう一度王に頭を下げ、胸当てや刀の重みに大人になったような気分で玉座に背を向け歩き出した。


後ろのほうで王が大臣を杖でブン殴る硬い音が響いた。





城下町に戻ると「やあ! ここはアハアリンの街だよ!」と男に声をかけられた。これで何度目になるだろう? この男は街をうろついて、誰彼構わずこの台詞を投げかけるのだ。いつもは無視してそのまま通り過ぎてしまうのだが、刀を見せびらかしたくて俺は「これを見ろよ」と笑いかけた。
「やあ! ここはアハアリンの街だよ!」男は刀には目もくれず、同じ台詞を腹の底からひねりだした。


俺はまっすぐにテンピャラの家へ向かった。昨晩のことを再び思い出して、股間が張りつめる。ファウルカップをしているせいで少しキツく感じたが、今の俺はもはや向かうところ敵なしだ。構わず股間を怒張させ、俺はテンピャラの家のドアを叩いた。

昼間のこの時間帯はテンピャラのお母さんは井戸の周辺で主婦仲間と喋るのが日課なのだ。不安になるくらい毎日同じことを続けているの、と以前テンピャラが話していた。ちなみに彼女のお父さんは数年前に魔物に襲われ死んでしまい、そんな似たような境遇が俺たちを引き合わせたのかもしれない。


ほどなくしてテンピャラがドアを開けた。テンピャラの顔を見るなり昨夜の興奮が甦り、抑えきれない性の衝動が全身を駆け巡る。またあの快楽の泉に身を沈めたい。深く深く、潜っていきたい。テンピャラも俺の考えていることに気づいたらしい。「もう……馬鹿ね」そう言ってかかとを上げて顔を寄せてくる。俺は剣道の面をつけていることを忘れて彼女にキスを試みた。金属の格子が彼女の唇に当たる。


その唇の放つ輝きに俺は真っ逆さまに落ちていく。


刀を放る。


多少手こずりながら胸当てを外す。


さらに手こずりながら剣道の面を外そうと手を頭の後ろへ持っていく。


しかし結び目が絡まってしまい、うまく外すことが出来ない。ちくしょう!


ファウルカップの下で俺の股間が激しく波打っている。もうダメだ。これ以上我慢なんて出来やしない。


無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ! ちくしょう!!


俺は気にせず面をつけたまま裸になり、きつく抱いた彼女の背中に両手を忍ばせてブラのホックに手をかける。彼女は彼女で必死に面を外そうと俺の頭の後ろへ手を伸ばし、面紐をいじくっている。


興奮で息が上がる。苦戦したものの彼女のブラを外すことに成功する。この世で最も美しいに違いない乳首がツンと上を向いて俺を誘惑している。艶かしい色合い。口をつけたい。匂いを嗅ぎたい。信じられないほどの光景だ! 彼女の乳首に舌を這わせれば、二つの突起がその硬さを増すことを俺は知っている。昨晩知ったのだ。その感動を!


なのに!


なのに!!


なのに!!!




面にめぐらされた金属の格子が邪魔だちくしょう!!




俺は悔しくて涙すら流す。


そのとき俺はふと思いだす。

16歳になったことを。



そう。俺は16歳。




まだ、16歳なのだ。




Fin