僕のことを「スーパーうんちくん」と呼んでほしい……
彼女にそう懇願したあの晩から、
3年近い月日が経とうとしていた。
正直に言って、3年も経ってあの話の続きを書くことになるとは思いもしなかった。線路に大量のドーナツを置くことで日本の交通機関をマヒさせようと企んでいた暗黒魔界の帝王を打ち倒し、彼女とベッドの上で交じり合ったあの晩で僕らの物語はハッピーエンドを迎えたはずなのだから……
おそらくこの文章を読むほとんどの方が「スーパーうんちくんて何だよ」と思われることだろう。なんたって僕自身、スーパーうんちくんのことなど完全に忘れていたのだ。そう……僕は今ではもう、彼女にスーパーうんちくんとは呼ばれていないのだ。
3年の月日は多くのものごとを変えた。
あの頃暮らしていた安アパートを離れ、僕らは少しマシなマンションへ移り住んだ。6階の部屋からは、3年前には建っていなかったスカイツリーが見える。僕は日がな一日、スカイツリーを眺めて暮らしている。恥ずかしい話だが、職には就いていない。友人と草野球をしていたら突き指をしてしまい、それ以来、僕は何もする気になれなくなってしまったのだ。幸い突き指は2日で完治したものの、働くことへの意欲は回復することがなく、今は彼女の月給で暮らしている状態だ。
*
……少し眠ってしまったらしい。目を覚ますと夜になっていた。また何もせずに一日が終わろうとしている……いや、今朝足の爪を切ったのだから、本当に何もしなかった昨日と比べれば前進と捉えていいだろう。それでもあの日の突き指さえなければと、どうしても思ってしまう……しかし過去を悔いていても仕方ない。もうじき彼女が帰ってくる時間だ。米くらいはといでおかねば。
だが米びつを見ると、中身がない。どうやら米を切らしてしまっているようだ。突き指をしてからというもの、いつもこうだ。指は突けるくせに、運はからっきしツイていないのだ。
どうしようもないので日本酒を呷っていると、彼女が仕事から帰ってきた。
「ねぇ、お米は?」米びつを開けた彼女がいら立ちを隠さずに尋ねる。チェーンソーを手にしたジェイソンでもここまで狂気に充ちた顔は出来ないだろう。まあ、ジェイソンじゃ顔は見えないが……
「お米切らしてるから買って来てって言ったよねぇッ?!
また酒飲んでるし!!! どうして何もしようとしないの!?
このクソ野郎ッッッ!!!!」
激昂する彼女にせっつかれ、僕は慌てて部屋を飛び出してスーパーへ向かう。
3年の月日は多くのものごとを変えた。
僕は今ではもう、彼女にスーパーうんちくんとは呼ばれていない。
僕は今、もっぱら
クソ野郎と呼ばれているのだ。
〜完〜