昨年末から付き合い始めた女の子と、上野恩賜公園へ桜を見に行った。
桜のアーチの下を彼女とのんびり歩く。
ときおり春の風が吹いて、彼女のフリルのスカートを揺らす。
僕は自分のカツラが飛ばされないか少し心配で、念のためにと持ってきておいた工事現場で使用する安全メットを装着する。
彼女がそんな僕の顔を見上げて、くすりと笑う。
僕は恥ずかしさを紛らわすため彼女の肩をポンとひとつたたいて、手を握って、歩く。
行き交う人がみな桜を見上げて、口々に「綺麗だね」なんて言い合う様は、ちょっとおかしくて、そして素敵だ。
「桜っていいな」
自分でも不思議なくらい自然に、言葉が口を衝いてでた。
来年も、再来年も、今隣を歩いてくれている人と一緒にいられたらいいな、一緒にいたいな。
心からそう思って彼女の横顔を見ていたら、これは未だに夢の中の出来事みたいに感じられるのだけれど、
「結婚してください」
って、言っちゃってた。
彼女はさすがにびっくりした様子だった。
無理もない。
言葉を口にした本人が一番びっくりしているのだから。
でも、彼女はこくんと頷いてくれた。
その後なんだかタイミングをはかったように彼女の頭の上に桜の花びらがひらひらと落ちてきて、可笑しくて、ふたりで声をあげて笑った。
桜のアーチの下を、彼女とのんびり歩く。
桜があるのとないのとじゃ、全然違うよな。
まるっきり、違うよな。
彼女の手を握りしめていつまでも歩いていくことを、
この桜になら誓えるかもしれないな。
そんな馬鹿みたいなことを考えながら、
僕らは歩き続けた。
しかし、
ひとつだけ問題があった。
この話、
全部嘘なんだよね……