魔王アメリガーマゾの野望を打ち砕き、世界に平和をもたらした勇者アメリカ。
勇者家業の引退を宣言してからは靴べら職人として活動し、和歌山に工房をかまえる。異界のモンスターであるゾバナポンのうろこを使ってつくる彼の靴べらには、全国から注文がひっきりなしに届いているという。
今回のインタビューでは氏の工房を訪ね、魔王討伐までの日々、そしてこれからの人生について語ってもらった。
ーーーー魔王を倒そうと旅立ったいきさつについてお聞かせ願えますか?
アメリカ:大学を出てから半年くらいですかねぇ、まあ就職もせずブラブラしてたんですけど、やっぱり周りの連中が職に就いちゃうと平日はほんとやることなくて(笑) で、求人広告を見てたらたまたま魔王討伐メンバー募集の記事が目について、3食付きで時給も良かったし応募してみたんです。
ーーーーではその頃はまだ世界を救おうという気はなかった?
なかったですね。だって、思い返してみてくださいよ。魔王アメリガーマゾに支配されてた頃、何か不便なことありました?
ーーーーうーん、近所の魔物に自転車をパンクさせられたことならありましたね。
でもそれくらいのものでしょう? 正直に言えば、高校のクラスメートだった谷山くんのほうがずっと怖かったですよ。谷山くん、授業中に爆竹を食べたりしてましたからね。
ーーーーうちの高校にもマチ針を飲み込むヤンキーがいましたよ。魔王討伐メンバーに入ってからの日々はどうでした?
どうもこうもないですね、最悪の日々でした。残りのMPを考えながら魔法を使えー!とか言ってくるんですよ、玉岡って名前の戦士が。あいつとは本当にウマが合わなかったなぁ。
ーーーーアメリカさんはその頃はまだ勇者ではなく……
ええ、焼き鳥の串で魔物の心臓を突く師でしたね。大抵失敗してましたけど。
ーーーー実際、勇者にはどのような形で?
結局、戦士の玉岡って奴と、あとそのチームでの勇者だった富美山っていうこれがまたひどくイヤミな野郎がいたんですけどね、そいつらと喧嘩になっちゃって。まあ彼らの言い分もわかるんですよ、僕焼き鳥の串持って突っ立ってただけですからね。
で、これはもうこのチームではやっていけないなあって、思っちゃって。玉岡が愛用してた枕に串突き刺して逃げちゃったんですよ。あいつ、旅行に枕持ってくタイプだったから(笑)
ーーーーそれで独立したわけですね?
独立というか……うーんなんだろう? まあ結果的に自分がリーダーをやってるほうが気楽だなあと思ったんですね。
ーーーー勇者アメリカの誕生だ。
(笑)
ーーーー最初の仲間を教えてくれますか?
あれはトッポコテトの街だったと思うんですが、どうせなら可愛い女の子をメンバーにしようと思ってなり振り構わず声をかけまくってたんです。そしたらミドリちゃんだったかなあ? そんな名前のすっごく可愛い子がいて、彼女しかいないだろうと。なんなら夜のメンバーにもなっておくれよと。
ーーーー(笑)
で、ミドリちゃんに声をかけたら、横から口を挟んできたツグワゲッフペゾンガみたいな顔をした女が「アタイが協力するボフゥー!」とか言ってきたわけですよ!
ーーーーツグワゲッフペゾンガというのはオペペ地方に生息するダイナモゴリラの学名ですね。
ペゾンガの奴、やる気満々なんですよ。ミドリちゃんの友達らしかったんですけどね。いやぁ、女の友情ってわからないもんですよ。ただ、頭にはきたものの僕も冷静になって考えましてね。こいつ下手したら魔王より強そうだぞって思ったわけです。
ーーーーうちのチームにとんでもない助っ人外国人が入団したぞと。
今年の優勝はもらったぞと。まさにそんな感じでした。結局ミドリちゃんとは番号交換だけ済ませまして、ペゾンガを一番目の仲間にしたんです。
ーーーーそうしてその晩、ペゾンガと一緒に泊まった宿屋で……
ええ。喰われました。
(後編に続きます)