「超さだまさし、だと……?!」
俺は目の前のさだをまじまじと見つめた。
「その通りだ」さだは右手に持った1932年型のモーゼルをゆらゆらと揺らしていた。
この時代に全自動式のモーゼルを見ることになるとは思ってもみなかったので、俺は少々面食らった。
一度引き金を引けば、文字通り相手を蜂の巣にできるイカレた銃だ。
少なくとも、俺はそういう派手な仕事はしたくない。
この男は殺しをやった後に薬莢を拾ってから現場を立ち去るようなタマにはとても見えなかった。
仕事の痕跡を残すことは俺の美学に反する。
「馬鹿な……ではお前は、さだまさしではないというのか?」言いながら俺は煙草を一本抜き取った。
さだのほうにも煙草を差し出してみたが、奴は目もくれず、両耳に差し込んであった葉巻を抜き取り火を点けた。
二本同時にだ。信じられなかった。
まったく意味のない吸い方である。
さだは二本の葉巻を口にくわえながら、
「言ったはずだ。私は、超さだまさしだ」と語調を強めて言った。
俺はいささか不安になってきた。本当にこの男はさだなのだろうか?
組織から聞いていた情報と食い違いすぎている。
第一、トレードマークと聞いていた眼鏡とマイクを身につけていないではないか。
「マイクはどうした?」俺が尋ねると、さだは表情一つ変えずに、
「ここだ」と言ってモーゼルの銃口で股間を指し示した。
「……あんたはいつもマイクを手にしているものだと思っていた」
「私がマイクを握るのは……」さだはやれやれといった様子で首を軽く横に振った。
「女を口説く時だけだ」
冷たい風が俺たちのあいだを吹き抜けていった。
俺は煙草を地面に弾いた。さだは葉巻を左の腋の下に挟み込んで火を消した。
かすかに、肉の焼ける嫌な臭いがした。とんでもない野郎だ。
俺はため息をつき、「あんたは眼鏡をかけていると聞いたが?」と言った。
「コンタクトに変えたのだ」さだの口調が若干変わったように感じられた。
俺は両の拳をぎゅっと握り締めた。
……しくじった。
プロのガンマンは、プライベートを詮索されるのを極端に嫌がるものだということを忘れていた。
こいつは本物のガンマンだ。それだけで充分ではないか。
俺は俺の仕事をするだけだ。
「すまない」と俺はあやまった。
「俺のことは、アメリカと呼んでくれ。
銃の腕は期待しないでくれ、ただの運び屋だ。
超さだまさし……これから、あんたを現場に連れていくよ」
「でかいヤマだと聞いている」さだの瞳が鈍い光を宿した。
俺は何も言わず、頷いた。
さだは俺が何か言うのを待っている様子だったので、
「月刊 桃色OL倶楽部 初版本」と俺は呟いた。
「それが今回の標的さ」
さだの表情がこわばった。
構わずに俺はさだに背を向け歩き出した。
俺とさだの長い一日は、そのようにして始まった。
〜Fin〜