そして、オカリナへ

オカリナ教室には失望した。


俺は、深い挫折を味わった。


教室の見学者は俺の他には70いくつかのばあさんが1人。

練習生達の平均年齢は50〜60代といったところだろうか。


若い奴など1人もいない。

ギャルがオカリナ吹いたっていいだろうが。

俺が一番若いってどういうことだ?


とはいえ、俺は出会いを求めてオカリナ教室の見学に来たのではない。

俺はオカリナを学びにきたのだ。

見学では練習の様子を一通り見せてもらい、最後にティーチャーがその技量を見せつけるべく夏川りみの『涙そうそう』を演奏してくれた。


「いかがでしたか?」ドヤ顔でそう尋ねるティーチャーに俺が返答しようとしたその瞬間、隣に座っていたばあさんが拍手しながら立ち上がり、



「鳥が見えました」



などと答えやがった。


正直、俺は動揺した。


涙そうそう』に鳥など関係ないこともそうだが、ティーチャーが「良い耳をお持ちですね」と満足そうに頷いたからだ。こいつら、イカれてやがる……。


しかもティーチャーは「あなたは何が見えましたか?」と俺に探りを入れてきやがるではないか……!!!

どうして何かが見えること前提なんだ……!?


もちろん俺にはバードなど見えやしなかった。

しかし、この状況で「何も見えませんでした」なんて言えるワケがない。仕方がないので脳にびっしゃり汗をかきながら俺はこう答えた。



「お……おいしいお芋が……


 ふけました……」



言ってからクソ後悔したが、何を言ったとしても後悔しかなかっただろうからどうでもいい。


しかし、自分でも何を言ってるのか意味が分からないこの感想に対し、なんとティーチャーは



「私もです」



などと言い、微笑みやがったのだ……!!!!

こいつはオカリナで『涙そうそう』を吹きながら、ふかし芋を想像していたというのか……?!!?



そこから先のことはよく覚えていない。

執拗に教室への勧誘が続いていたハズだが、俺の脳裏にはふかし芋のビジュアルしか残っていないのだ。



そのようなワケで、


俺は今月から


オカリナを学ぶことになった。