The Little Sister 〜マイコプラズマという女〜

マイコプラズマ』というチャーミングな名前の病気をご存知であろうか?


数日前の晩、突如激しい咳の発作に襲われた俺は、そのままノンストップで咳をしながら朝を迎えた。咳が出始めて1時間目までは「ずいぶん長く続く咳だな…」くらいにしか思っていなかったのだが、それが2時間、3時間と続き夜中の4時になってもまったく咳が引く気配がないので、俺は当初の観測よりもやや重い「俺このまま死ぬな、絶対」という判断を下したのであった。


結局一睡も出来ぬまま迎えた朝の9時。俺は10tトラックの下敷きになったせんべいのような気持ちで病院へ向かい、聴診器にレントゲン写真、手相に姓名判断といった診察を経た結果「マイコプラズマ」という病気にかかっていることが判明したのだ。


マイコというのは人間の口の中でのほほんと暮らしている細菌の女の子なのだが、これが相当なドジっ子らしく、免疫力が低下すると口内から気管支のほうへ落ちてしまうそうだ。そうなるともう大変。目覚めたら知らない男の部屋にいたマイコは、己を恥じながら激しい後悔と共に気管支内でヒステリーを起こすのだ。


リストカットに発狂に刃物のブン回しと、メンヘラサイドに墜ちたマイコの大暴走は強烈な咳の発作を俺の体に引き起こすというワケである。


それにしてもこれまで狂犬病エボラ出血熱マラリアなどヤバイ病気には一通りかかってきた俺だが、咳が8時間も9時間も続くこのマイコには本当に苦しめられた。何の気まぐれなのかマイコプラズマというのは夜間に異常に活発化する為、発作が起きるとまず眠ることは不可能になる。一応、放っておいても自然治癒できなくはないらしいが、こんな発作を毎晩起こしていたらどのみち睡眠不足で死ぬことになるだろう。


冬はマイコプラズマが流行する時期でもあるという。あなたも夜間に突発的な咳に見舞われたら、すぐさま病院で手相と姓名判断を受けることをお薦めする。