八重樫 VS ロマゴン

WBC世界フライ級タイトルマッチ、八重樫 東 VS ローマン・ゴンサレスの一戦は期待通りの、いや、それ以上の激戦だった。今年これまでに日本のリングで行なわれた試合の中でも間違いなくトップレベルの攻防、緊張感に満ちた名勝負だったと思う。


ポイントだけ見ればロマゴンの圧勝と言うべき内容だったが、ワンツースリーまで打ってくる八重樫選手の攻撃がロマゴンを捉えるシーンも度々あった。緊張感ある乱打戦の末、決着となった9Rにロマゴンが口を開けて息をしているシーンが強く印象に残っている。少なくともロマゴンのああいう表情は、それまでの試合ではお目にかかった事がない。彼もそれなりに消耗していたのだろう。


この勝利でニカラグアの怪物はプロアマ通じて127戦無敗とレコードを延ばし、3階級制覇を達成した。 2008年、当時のミニマム級王者・新井田 豊を圧倒的な馬力で粉砕したあの夜の衝撃は、ボクシングファンなら誰もが覚えているだろう。あれから6年、怪物はさらに進化して日本のリングに帰ってきた。新井田戦同様、昨夜の試合もボクシングファンによって末永く語り継がれていくに違いない。


ロマゴンと言うと『プロ40戦34KO』という攻撃力ばかりに目が行きがちだが、個人的には相手のパンチの芯を外すボディワークや距離感の掴み方、つまりディフェンス技術もこの選手の大きなアドバンテージなのではないかと考えている。あれだけ強烈にプレッシャーをかけ続けるファイタースタイルなのに、とにかくクリーンヒットを貰う印象がないのだ。


近年で最も手を焼いたと思われるフランシスコ・エストラーダ(現WBAWBO世界フライ級スーパーチャンピオン)戦でも、あれだけ激しく打ち合いながらまともな被弾は許していなかった。ロマゴンを攻略するには、ハードパンチへの警戒・対応だけでなく「何故こちらの攻撃が当たらないのか?」という面からアプローチしていくのも面白いかもしれない。


ちなみに俺は上半身の短さがカギになっていると睨んでいる。階級を上げて体が大きくなってから特にそう感じるけれど、両腕を上げると体がすっぽり隠れる印象があるからだ。数字を見る限りリーチは普通なので、上半身が短いというボクシングに特化した体を持っているのではないかと……。身長自体も小さいけれど、実際に相対したら想像以上に「こいつ打つところないじゃん!?」と戸惑いそうな気がする。その上あの緻密なボディワークとゲロ吐いちゃいそうな異次元プレッシャーである。凡百の選手が頭であれこれ悩んでいるうちにロマゴンの支配下に置かれてしまうのも無理はない。


とにかく恐ろしい選手だが、八重樫選手は文字通り命を削りながらいかにも「激闘王」らしい熱いファイトを見せてくれた。本当はかつて高山 勝成選手がロマゴン戦で試したようなサイドからの動きや激しい出入りも見たかったけれど、試合後のインタビューを見る限りそれを実行するにはプレッシャーがあまりにも強すぎたか……。


次はいよいよ井上 尚弥選手が挑戦か?という流れだけれど、もし井上 VS ロマゴンが組まれたら八重樫戦を凌駕する、超ハイレベルな技術戦になるだろう。ボクシングファンが白目をひん剥きながら昇天するような夢のカード、2015年中には観たいところだが難しいかなぁ? 何にせよ井上選手自身が「やりたい」と言ってくれている事が嬉しい。どっかの甥っ子とは違うんだぜ、と言ったところか。


4つも挑戦できる団体がある王者乱立の現代ボクシングだが、やはりこの競技は『最強を決めるために戦う』ことが根幹にあり続けなければいけないはず。


対戦相手を選びに選んでよく分からん選手を連れて来た挙げ句に眠〜いゆるふわファイトを演じたり、団体にお金を払って指名戦から逃げるなんてカッコ悪いじゃないか。


八重樫 VS ロマゴン戦のようなドツキ合いを見て、亀田選手や井岡選手が何を感じたか、とーーーっても興味がありますね(棒)