読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『マネーの虎』出演の黒歴史

かつて、マネーの虎というテレビ番組があった。


起業を目指す志願者が投資家たち相手にプレゼンテーションを行ない、事業への出資を求めるという、リアリティ番組だ。プレゼンが認められれば交渉成立、出資金を獲得できる。


……実を言うと俺もこの番組に出演し、プレゼンをしたことがある。今日はあの日の思い出を人生の闇が沈む記憶の底なし沼から引き上げ、ここに記そうと思う。


なぜそんな事をするのか?


答えは明快だ。


黒歴史を風化させないためである。



俺には「虎」と呼ばれる出資者たちを唸らせる、完璧な事業計画があった。


このブログを読むみなさんにはこんな経験がないだろうか? 『夕食に出前をとろうと思ったのだが、電話するのが億劫で結局夕飯を抜いてしまった』……誰もが1度は経験した事があるであろう、この「出前あるある」に俺は着目したのだ。


その名も、『出前代行業』。


出前をとりたいけれど店に電話するのが面倒だという人たちに代わり、出前注文の電話をかけるというサービスである。ユーザーから受けた注文内容と住所を希望の出前店へ伝え、ユーザーには出前注文にかかった電話代を請求する事で利益を生むという仕組みだ。


今こうして書き出せばそれなりに粗もある計画だが、自分のアイデアに陶酔し周りが見えなくなっていた当時の俺は、自信満々でプレゼンへ臨んだのであった。



日本テレビのスタジオで虎たちと対面した俺は、緊張で尿を漏らしつつもなんとかプレゼンを終えた。オムツを穿いて行ったのが功を奏したのだ。ボロボロのプレゼンではあったが、その点だけは評価できるだろう。


それにしても、今思い返してもタマキンがしぼんで音もなく床に落ちてしまうような、寿命が削ぎ落とされる経験だった。例えるならば、俺は六本木ヒルズに体当たりをかまし続ける蟻だった。何をどう話しても虎たちから反応がないのだ。


俺の『出前代行業』の提案を聞き終えると、虎の1人である高橋がなり社長がこう言った。


「それ必ず失敗するよ」



また、美空ひばりさんの息子である加藤和也社長はこう断言した。


「面白くない」




堀之内九一郎社長は、終始このような表情で俺を眺めていた。




やがて、司会の吉田栄作さんが俺に何の興味も示さない瞳でこう言った。


「ノーマネーで、フィニッシュです」





以上が俺のマネーの虎出演における黒歴史である。


もう何年も前に番組は終わってしまい、かつて虎と呼ばれた社長たちの中にも転落を味わった人が多くいると聞く。ビジネスで成功を収めるのは、とてつもなく難しい事なのである。


それでも俺はたまに思い出すのだ。


自分の考えた事業『出前代行業』を……。



果たして本当にうまくいかないだろうか?


社長たちが言ったように、失敗するだろうか?



俺は、



失敗すると思う。



〜了〜