私は昔の恋人からもらったプレゼントや手紙は結構あっさり捨ててしまったりするのだが、どういうわけか写真はすべてではないにせよ結構残しておいたりする。たまーにひとりで酒でも飲みながらその写真を眺め、過ぎ去った日々に想いを馳せる…ワケはなく、振り返ることもない終わった恋の写真を何故残しておくのか自分でも不思議なのだ。大体、昔の恋人の写真をとっておくなんてちょっと、いや、かなりキモチ悪くないか…?
と、いうわけで、すべて捨ててしまおうと決断した。
たしか写真保存用のフォルダにひとまとめにしてあったハズ……。フォルダ内を調べていくうちにやはりあった、『オワ恋』という名のフォルダ。記憶は定かではないが、この醜悪なネーミングセンスから察するにこれに違いない……案外楽しんでたんじゃないのか自分……そんなことを思いながら「オワ恋」フォルダを開いてみると、そこには写真データではなくテキストファイルが一枚仕舞われていた。
おかしいなと思いつつテキストを開くと、「オワ恋写真は外付けHDDに移行済」と書かれているではないか。なるほど、どうやら私は写真データをすべて外付けのハードディスクに移し、パソコン内からはデータを削除しているらしかった。そんなこと一体いつしたのだろう? 覚えがないが、仕事のデータなどもちょくちょく外へ移行させていたりするからその過程でオワ恋写真にも手を付けたのだと思う。
外付けHDDを引っ張り出してデータ名検索をかけてみると、「オワ恋」フォルダはすぐに見つかった。が、フォルダ内には写真データではなくzipデータがあるだけだ。しかもこの圧縮データ、パスワードが設定されているではないか。
嫌な予感がした。外付けHDDにデータを移行したうえにデータにパスワードロックまでかける厳重さ。これは私が思う以上にとんでもない黒歴史写真が収められていることの現れではないだろうか?
とはいえロックをかけたはずの本人がパスワードをまったく覚えていないのだから、どれだけ恥ずかしい黒歴史がそこに封印されていようとなんら問題はないともいえる。それに、この圧縮ファイルを削除してしまえばすべてに片がつくのだ……
そうは思いつつも私は徐々に「オワ恋」写真が気になり始めてもいた。ここまで来たのだから捨てる前に一度目を通したい。しかし一体どんなパスワードを設定したのだろうか? クレジットカードの暗証番号、SNSに使用しているパスワード、果ては好きな映画のタイトルまで……思いつくままにパスを打ち込んでみたもののすべてハズレ。が、半ば諦めながら自分の誕生日を打ち込んでみたらロックはあっさり解けた。こいつは本当にデータを守る気があるのだろうか……自分に呆れつつ、とうとう私は「オワ恋」フォルダを開いた。
そこには写真データではなく、テキストファイルが一枚仕舞われていた。
以前にもこんなことがあったような気がする……。
嫌な予感を覚えつつテキストファイルを開いてみると、
「残念wwwWWWwww
データはプリントアウトして全て消去しましたwwwWWWww
プリントアウトした写真は実家に保管してありまぁーッすwwwWWwww」
との文面が……
しばし放心した後、
過去の自分の悪ふざけに怒りを感じながら外付けHDDを窓からブン投げ、
私は実家へ帰ることを決めたのだった。
〜了〜