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人生で食べた最も美味しいバナナ

ノスタルジー 物語・短篇

文章を書き始めるとあれもこれもと詰め込んでしまい、首を吊ったキリンのような長文になってしまう。


長文が悪いとは決して思わないが、それでも自分のブログを読み直すと「もっとコンパクトに書けるはずだ」という反省点は多々ある。


こうした長文化は結局のところ記事内容の芯のなさ、コンセプトの弱さが原因なのではないかと僕は考えた。

これまでの記事もそうだが、「Wikipediaの文章っぽく書けばいいんじゃね?ww」「エリック・クラプトンのライナーノーツ書いたことにしちゃおww」といった安易でいい加減なテーマ設定が、このブログを一層混沌としたものにしている気がしてならないのだ。先日ガチでユニバーサルインターナショナルさんから苦情も来た事だし、こんな嘘ばかり書いていいワケがないではないか。


そこで今回は『人生で食べた最も美味しいバナナ』という、ブロガーであれば誰もが一度は挑戦するベタなテーマで記事を書こうと思う。誰にでも「忘れられないバナナ」の思い出はあるハズだ。女の子なんて特に多いのではないだろうか? こうした普遍的で言いたい事が明確なテーマを設ければおそらく6行程度で記事がまとめられるだろうし、バナナなら何を言ってもOKといった風潮がこの日本社会にはある。


本来ならばバナナのイデオロギー的な側面に注目して話を進めていくことが筋なのだとは思うが、そうなるとフランス革命以後の社会状況の変遷についても語る必要が出てくるし、何よりまたとんでもなく長い記事になりかねないので、ここでは割愛する。

それに正直に言って、フランス革命うんぬんの話は両肩に特盛のうな重を乗せるように僕には少々荷が重い。

そのようなわけで、美味しかったバナナの話は僕が専門学校を卒業したあたりのところから始めるのがベストだと思う。



専門学校を服を着たまま卒業した僕は就職もせず、だらしない下半身同様ぶらぶらして日々を無為に過ごしていた。
しかし、ぶらぶらを防ぐ為に世の中の男子が下着を穿くように、僕も無職である状況を防ぐ為のブリーフのようなものが必要であることを内心感じてもいたのだった。

そこで僕はインターネットという、当時は世界の一部の貴族しか使用することを許されていなかった画期的なシステムを用い、職探しを始めた。


自分に最も合った職業を探すため、僕は検索対象を「猿 仕事 阿蘇 求人 エッチ 動画」といったワードに絞り、阿蘇お猿の里 猿まわし劇場』のホームページに辿り着いたのである。


求人内容は以下のものだった。

・生後6ヶ月〜1歳半までの元気で従順な猿。
・踊りや寸劇に興味があること。
・人間に笑われることを屈辱と捉えないこと。
・ある程度の日本語を理解できればなお可。


「これなら俺にも出来るかもしれない……!!」


僕は迷わず面接エントリーボタンを押した。



* * * * * *  * * * *



面接会場に到着した僕は周りの連中を見て勝利を確信していた。



猿しかいなかったからだ。



彼らは面接だというのにスーツすら着ておらず、ウキだのキャッキャだの呟きながらバナナをかじり、落ち着きなくそこかしこをうろうろしている有様だった。反省猿の次郎君のような超高校生級の猿がいないことは火を見るより明らかである。

しかしこの場所にいるということは、こんな猿どもでもインターネットは使えるということだ。最後まで気は抜くまい。そう思った矢先、 「あのぉ、すみません」と突然声をかけられた。


声の主は猿まわし劇場のスタッフのようだった。
胸につけてあるネームプレートには「米川」と記してある。

いよいよ面接の順番が回ってきたと思った僕はすぐさま猫背になって片手を頭の上に置き、「ウッキッキィィィィィーーーーーッ☆」と絶叫した。

「あ、あの……今回は内部スタッフの募集は行っていないのですが……」
「ウッキッキ?」さすがの僕も動揺した。
「お分かりだと思うのですが、今回は猿の募集です」
「ウキィ……?」僕は少し可愛い子ぶってみた。


が、駄目だった。


「ちょっ、待ってください!!」僕は叫んだ。
米川氏はぬるま湯が並々と注がれた長靴に足を突っ込んだような顔で僕を見ている。
「猿に出来ることなら僕にだって出来ます!!
 だから、お願いです! 僕を猿として雇ってはいただけないでしょうか?!」
「猿としてって……あなた、お名前は?」
「アメリカです! アメリカ・アマゾンと申しますっ!! ウキィ〜っ☆」
チャンスとばかりに僕は米川氏の靴に飛びついて頬ずりをかましてみた。



が、無駄だった。



「いいですかアメリカさん、猿まわしは猿がやるから意味があるんです」

「なッ…!? そうなの?!」

「アメリカさん、残念ですが、今回は不採用とさせて頂きます」


EXILEの連中に囲まれて明らかにテンションが上がっている母親を眺めるような気持ちで、僕はその場に突っ伏した。

「猿に出来ることは……俺にだって、俺にだって出来るのにッ……!!」



その時だった。


僕は背中に温もりを感じた。


顔を上げると、猿が僕の周りを取り囲んでいた。


どの猿もフィリピンに渡った小向美奈子容疑者を見守るような暖かい眼差しで、僕の背中に手を置いてさすってくれていた。
「こ、これは……!!」米川氏が叫ぶ。

「信じられない…… 演目でもないのに、猿が同情をしている……!?

「お……お前ら…… ちくしょうッ、俺は安室ちゃんとSAMの結婚報道以外で涙を流したことなんてないのにっ……」


すると群れの中から一匹の猿が僕に近寄って、バナナを差し出した。

「……? くれるのか、俺に?」
猿は歯ぐきをむき出しにして僕に満面の笑みを見せた。


僕は震える手でそのバナナを受け取り、ひと口かじってみた。


バナナは信じられないほど甘く、ちょっぴり涙の味がした。



この時に食べたバナナが、僕が思い出しうる限りにおいて人生で最も美味しかったバナナである。


〜完〜