みなさんはゾンビというものにどれほどの関心をお持ちだろうか?
最近はゆとり教育などといって、学校でゾンビに関する授業を行っていないという話を耳にした。
墓荒らしはおろか、死体解剖すら行わないという。大変嘆かわしいことである。
私がサイドビジネスとして年4回刊行している「のんびり気まま ゾンビ通信」の購読者も年々減る一方で、ゾンビという存在はもはや世の中から忘れ去られようとしているのかも知れない。
昨年、ゾンビ歌謡の第一人者といわれたマイケル・ジャクソン氏がお亡くなりになったことも、ゾンビ業界にとっては大きな痛手であろう。
このようにゾンビが衰退した原因の一つとして、私は女子高生を中心とした熱狂的な "オーパーツブーム" が絡んでいるものと推測する。
先日も電車に乗っていたら女子高生の一団が口々に、
「ロストテクノロジーやばくない?」
「まじカブレラ・ストーン熱いんだけどぉ〜!」
「ダマカス鋼の強靱さは異常〜☆ マジうけるぅ!」
「あたしぃ、ツタンカーメンの生まれ変わりの可能性大みたいなぁ〜?!」
などと熱い議論を繰り返していた。
これにはさすがの私も彼女たちの眩しい太ももに目を落とさずにはいられなかったほどである。
オーパーツブームには嫌気がさしている私だが、このブームから学ぶべきことは多々ある。思えば『an・an』でオーパーツ特集が組まれたことから今回のブームは始まったのだ。
文化を生み出すエネルギーに満ちあふれた彼女たちに受け入れられることこそ、ゾンビ復興の鍵となる。
私は早速マガジンハウス社に電話をしてみたが、対応したやたらと甲高い声の女は、
「ん〜、ゾンビですかァ〜。面白いとは思うんですけどォー、セックスと絡めにくいですよねェー……」 などとぼやく始末。
「セックス? そんな健康なこと、ゾンビがするわけないじゃないですか」と私は語尾を強める。
「でしょでしょ〜。うちの読者が欲してるのは、セックスの話題なんですよォー。
オーパーツにしたって、例えば "超古代文明のセックス事情☆ アッシリアの水晶で彼のハートもお見通し☆" みたいな記事の書き方しているわけでェ〜、先月号の "出来る女はストーンヘンジへ男を誘う☆" みたいなのを持ってこなきゃ読者の子たちは見向きもしませんよォー。ちなみに今月号はガイガーカウンターの反応で草食系のニブい彼も……」
彼女の話はまだ続いていたが、私はため息をついて受話器を置いた。
結局のところ異性やセックスの話題を持ち出されては、ゾンビとしては打つ手がないのだ。 オーパーツ全盛の現代にあっては、ゾンビで女子高生を取り込むことは不可能に近い。
かといってマイケル氏がいなくなった今、私がやらねば誰がゾンビを後世に伝えられるというのだろうか?
このブログを読むあなたに出来るだろうか?
否、出来はしないだろう。あなたのその苦笑いを見れば、私だって少しくらいは空気を読む。
あなたにはあなたのやらなければならないことがあるのだ。
人は皆、それぞれのロール(役割)を背負って生きているのだから……
「俺には……伝えなければならないことがある……」
私は拳を握りしめた。
そのようなわけで私はこの数日、家にこもってゾンビの歴史を紐解く作業に没頭していた。
膨大な情報を整理し、真実と虚偽とを的確に区分けした。
情報の洪水、小宇宙とも呼べるようなゾンビの歴史を大まかにまとめると、以下のようになる。
紀元前98038年 地獄の都Bitter Valley地区(東京都渋谷区)にてデーモン小暮閣下生まれる
1978年 ジョージ・A・ロメロ監督 「ゾンビ」公開
1982年(魔暦紀元前16年) 「聖飢魔II」結成
1983年 マイケル・ジャクソンさん 「スリラー」シングル版発売
1980年代後半 日本で「キョンシー」ブームが起こり、今なお根強い人気を誇る。ちなみに女優の小泉 今日子氏の愛称である「キョンキョン」はこのキョンシーから取られたものである。
1999年 「地球征服を完了した」として、聖飢魔II解散
これだけを見てもゾンビがいかに人類の歴史と密接な関係にあったかがわかることだろう。
そしてゾンビの歴史を再構築していく中で、私はついにゾンビ復興の鍵となる強力な存在を発見するに至った。
この新種のゾンビの発見は、私にとっても嬉しい誤算であった。
ゾンビのイメージを一新する愛らしいキャラクターデザイン。
111cmという、既存のゾンビ観からはありえないような身長設定や、犬が苦手というユーモラスな側面に至るまで、そのオリジナリティーと親しみやすさはゾンビの中では群を抜いているといえよう。
加えて日本のすべての子供たちが共感を得るであろう、ファンタスティックであり、かつプリミティブなストーリー展開。これがヒットしなければ、おそらく今後日本のお茶の間にゾンビが登場することはあるまい。
このキャラクターなら、この作品なら、いける!
そう確信した私は早速、版権元の藤子不二夫事務所へ電話を掛けた。善は急げである。
「……と、こういうわけなのです。
日本のゾンビ復興のためにも、先生のお力を貸してはいただけないでしょうか?」
私は藤子不二夫A先生にゾンビ界の現状を話し、懇願した。
そして、ブルドーザーのような重い沈黙の後、藤子不二夫A先生はこう言った。
「オバQは、ゾンビじゃない。
(妖怪です)」
〜終〜