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ゲームの神様

ノスタルジー

「トランプのカードは全部で何枚あるのか」という、いわば人類の謎に挑戦し続けてきた当ブログだが、今回は趣向をガラリと変えて私の仕事について書いてみようと思う。



私は去年の初め頃から、スーパーマリオポケモンなどでおなじみのゲームメーカー「任天堂」と仕事をしていて、一年半近くの間、ある大作ゲームの制作に携わってきた。


その大作ゲームというのは有名な「スーパーマリオシリーズ」の最新作で、任天堂Wii向けに年末発売が予定されている。

夏が終わる頃には大規模なパブリシティを打つ予定なので、このブログをご覧の皆さんには一足早いご報告ということになる(※守秘契約等のこともあるので、くれぐれもこの話しは秘密にしておいていただきたい) 。



さて、病気のネコに目薬をさすのが本職の私がどうしてゲーム制作などに、しかもあの任天堂の人気シリーズに関わるようになったのか、まずはそこから説明したほうがよいだろう。


ことの始まりは私の母親の「ヨット遊び」に起因している。


私の母はヨット操船の免許を所持しており、昔から暇さえあれば家事をほっぽらかして一人でヨットに乗りに出てしまう困った人だった。


あれは一昨年のことだったと記憶しているが、一週間ほどのヨット遊びから帰ってきた母は妙に身体をくねらせながら、「やっちゃったぁ☆ 茂と」と、頬を赤く染めながら私に言った。


嫌な予感がした。


母が身体をもじもじさせながら話す内容で私が傷つかなかったことなど、子供の頃から一度としてなかったからだ。

「……シゲルって、誰だよ」うながさない限り母は身体をくねらせることを止めないのを知っているので、私は仕方なしにそう尋ねた。


「ほらぁ☆ 任天堂の。マリオとか、つくった人」母は雨に濡れて光るこんにゃくのように腰を揺らせた。


「……で?」


「やっちゃったの。彼と。情事。じょ・う・じ
母は火であぶったトロのように身体を火照らせた。


もう何度目になるかわからない。


私の母親はヨットで海に出ては男漁りを繰り返していたのだ……。

いい歳こいて本当に恥ずかしい女だが、相手があのマリオの生みの親、宮本茂とあってはさすがの私も腰を振らざるをえなかった。


それからしばらくして、宮本氏と母の関係は私たち家族をも巻き込んだものへと発展していき、宮本氏はたびたび私たちを食事に誘ってくれた。


私の父はベンジョコオロギを噛みつぶしたような表情で食事会に参加していたのだが、ある日、宮本氏から分厚い茶封筒を手渡されてからは宮本氏のことを「神様」と呼んで讃えるようになった。

食事会が行われるたびに父の乗る車のグレードは上がっていき、両手にはゴツゴツとしたダイヤがまばゆい光を放ち、最終的に父は総金歯になった。


妹が父のように宮本氏から何かを受け取っていたとは思えないのだが、妹も宮本氏に傾倒していくようになり、とうとう腕に「ドンキ命」というタトゥーまで彫ってしまった。

ドンキ、というのは宮本氏が生んだ任天堂の人気キャラクター、「ドンキーコング」のことを指しているのだろうが、ドンキ命ではディスカウント・ストアのドン・キホーテと勘違いされるのではないかと、兄として妹の将来を心配せずにはいられなかった。


そのようなわけで、私だけは術中にハマるまいと宮本氏とはいくらか距離を置いた付き合いをするよう心がけていたのだが、そんな私も宮本氏が耳元でささやいた「僕と一緒にマリオの新作つくらない?」の一言でコロリと落ちてしまった。


かくしてアメリカ一家は宮本氏の熱狂的支持者となったのである。


さて、ようやく本題に入る。


驚くことにスタッフ入りした私の初仕事は「ゲームタイトルの考案」であった。

マリオシリーズはこれまでスーパーマリオブラザーズ」「スーパーマリオワールド」「スーパーマリオ64」「スーパーマリオサンシャイン」「スーパーマリオギャラクシー」「New スーパーマリオブラザーズ Wiiと進化を続けてきたわけだが、ここで今までにない発想をタイトルに取り込もうという宮本氏の考えから、素人の私の参加が決まったらしい。

会議には私を含め17人もの人間が参加した(余談だが任天堂の社員はみな、マリオが被っているのと同じ赤い帽子を被っている)。


「今回の新作はプレイヤーを裏切るというか、……もちろんこれは良い意味でですが、大きなインパクトを残せるタイトルにしたいと思っているのです。それこそ今回はタイトルに「スーパーマリオ」という言葉は使わなくてよいのではないかと、それぐらいのことを僕は思っているのです」宮本氏は会議室に集まったメンバーを見回しながら喋った。



「マリオを使わないタイトル名ですか……。なるほど、ユーザーには新鮮かもしれません」参加メンバーの一人が頷きながら発言した。

「しかし、マリオという名前はそれだけでインパクトになりますよ。あえて外すというのは、逆効果ではないでしょうか?」そのような声も上がった。

宮本氏の大胆な案は当然物議を醸したわけだが、同席していた任天堂岩田聡社長の英断もあり、今回は「スーパーマリオ」という言葉を取り払った、まったくの新規タイトルであるかのようなタイトル付けをする方向で話は進んだ。


しかし事は容易ではなかった。当然である。

スーパーマリオ」という言葉を使わずにマリオのゲームタイトルを考えるこの会議は難航し、タイトル未定のままゲーム制作は進み、開発から一年半近くが経過した6月中旬に至ってもタイトルだけは決まらずじまいだった。


幾度ものミーティングが設けられた後、最終会議まで残ったタイトル案は以下の通りである。


・土管もぐり Wii

・ブロック叩き Wii

・New 大きなキノコ Wii

・ 主力商品 Wii

1Q84 book4 Wii


「……ダ、ダメだ……」宮本氏は力なく呟いた。


「……こんなんじゃあ、ダメだ!! どれもこれもスーパーマリオですと言ってるようなものじゃないか! 僕たちは何のために会議を重ねてきたんだ!?」


「し、しかし宮本プロデューサー、やはりマリオの冠を使わずして作品を表現することなど不可能ですよ! ここは妥協して、主力商品 Wiiを採用してみては、、、


「不可能なものか! 挑戦することをあきらめたら……そこでゲームオーバーなんだ!」


会議室に重い空気が流れる。みな、黙り込んでしまった。


「何か……何かあるはずなんだ……マリオの名を使わなくてもインパクトを与えることができ、かつユーザーにもすぐに馴染むような、そんな響きを持ち合わせた言葉のつらなりが……」


「……」沈黙は続く。


「考えるんだ! コアなゲーマーだけでなく、すべてのゲームファンに届くタイトル……! ユーザーをいい意味で裏切るような、私たちがまだ気づいていないものがきっとあるはずなんだ!!」


「……」 ? 頭に引っかかる、この感じ……。



私の中に何かが生まれつつあった。



コイン集め Wiiはどうかなぁ……」私の右隣に座るスタッフが首をひねる。

スンンパンンマンンリンンオンン Wiiなら、マリオを想起させないのでは……」左隣からは念仏が聞こえてくる。


集中しろ! 集中するんだ……!!


ルイージ Wiiというのはどうだろう……」鼻の穴に指を突っ込みながら私の正面に座るスタッフがつぶやく。


神経を研ぎ澄ませ……!!



「!!」



白い光がちかちかと目の前で点滅し、私は思わず立ち上がった。


「どうしたのかね、アメリカくん!?」宮本氏もつられて立ち上がった。


「ざわざわ……スパパパパパマリリリリリリオンオンオン……」ざわめくスタッフたち。


「な、なにか名案が?!」岩田社長も立ち上がり、筋力トレーニングのために振っていた重さ250kgのマラカスを床に置いた。



「ええ、ひらめきましたよ……」私は一同をゆっくりと見回し、にやりと笑った。


「ど、どんなタイトルだね?!」






ドラゴンクエスト、というのはどうでしょう……?」と私は言った。




宮本「ドラゴン……」


岩田「クエスト……」


一同「だとぉ……!?」



私はにぎり拳をつくり、親指だけをおっ立ててみせ大きく頷いた。



やがて宮本氏がぷるぷると震えだし、こう言った。


「ど、どうして思いつかなかったんだろう……。
 ドラゴン……クエスト……。
 どこか懐かしく、かつ、なんて希望に溢れた響きなのだろう……!!
 す、すごいぞアメリカ君!! よくやってくれたっ!!」



「わーーーーーーーーっしょい」



「わーーーーーーーーーっしょい」



私は胴上げされた。



こうして無事にタイトルは決まり、ゲームもマスターアップ間近となった。


始めに書いたように、任天堂マリオシリーズ最新作ドラゴンクエストは今夏の終わり頃に大がかりな発表が行われる予定である。ぜひ、期待していただきたい。





しかし、ひとつだけ問題があった。






この話、全部嘘なんだよね……。



〜 了 〜