1Q84完全解体 〜これが本当の書評だ!!〜

発売されるや否や評論家の間で賛否両論を巻き起こした村上春樹の問題作、『1Q84』。


江戸時代にタイムスリップしたV6の話が途中から全く描かれなくなるのは何故なのか?


未来人類に誘拐されたはずの父から送られてきた電子メールに記された、「電子レンジはご飯で温めろ」というメッセージに隠された真実とは?


そして主人公が片時も話さず持ち歩いていたセミの標本が「恒星間戦略統合兵器・デウスシステム」を止める鍵だったという強引な展開、 結局あれは一体何だったのか!?


すべての謎を解き明かすべく、ついに評論界の重鎮ミヤヤダイ シンジとblog界のやさぐれマントヒヒことアメリカ・アマゾンが、お互いブルドーザーに乗って正面からぶつかり合う!!


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アメリカ「えー、ミヤヤダイさん、今日は『1Q84』を読み解くということでお越し頂いたわけですが」

ミヤヤダイ「うん、実はまだ1巻の途中までしか読んでないのだけど、今日はよろしく」


アメリカ「私は以前、腕相撲から作品の本質に迫る方法はないかと考えてアームレスリングの大会に出場したことがあるのですが、そのとき感じたのは、腕相撲で小説を語ることの困難さみたいなことだったんです」

ミヤヤダイ「興味深いね。僕も一時期、コギャルと日サロから小説という枠組みを捉えようとしたことがあったんだ」
アメリカ「どうでした?」


ミヤヤダイ「さっぱりわからなかった(笑)」


アメリカ「先日ね、テレビで大王イカの特集をやっていたんですよ。で、思ったんですね。こんなの食べたらお腹がふくれるだろうなぁって」
ミヤヤダイ「ふむ」
アメリカ「この『1Q84』という作品も、大王イカと同じだと私は考えるわけです」


ミヤヤダイ「すごくイカ臭いってこと?」


アメリカ「いえ、つまりですね、お腹がふくれるんです。この作品は典型的なボーイ・ミーツ・ガールの小説とも捉えることができるし、SF小説的なアプローチもある。中盤なんかはミステリーの要素も多分に含まれていますよね? こうした懐の広さが幅広い読者層を獲得した原因のひとつだと思うのです」

ミヤヤダイ「なるほど。アメリカさんの言っていることはよくわかります。けれど、僕はそうは考えていない。僕はこの物語は一種のボーイ・ミーツ・ガールものだと思っていますね」

アメリカ「それは今、私が言いましたが……」

ミヤヤダイ「この『1Q84』という小説は、『21エモン』以来のエポックメーキングな作品だと思います」
アメリカ「それは興味深い読み方ですね」

ミヤヤダイ「まあ、言ってみただけなんですけれどね(笑)しかし、案外面白い視点かもしれない。『1Q84』も『21エモン』も、父親が物語に深く関わっているという点では共通していますね」


アメリカ「21エモンが実家のホテルを継がずに宇宙飛行士になろうとしていることを、パパは頑に否定していましたからね。今思うと21エモンという作品は、宇宙生活という「非日常」の中に現代における「日常」を放り込むことで生まれるギャップを楽しむという、なかなか考えられた構造をしていたように思います。ドラえもんと同等にとまでは言いませんが、もっと評価されてよい作品であることは事実です」
ミヤヤダイ「ええ。僕は内容を全く覚えてないんですが、それには同感です」



アメリカ「さて、そろそろ本題に入りたいのですが、ミヤヤダイさんは『1Q84』のどこに着目されましたか?」
ミヤヤダイ「第13章だったと思うんだけれど、さだまさしの下半身が火星に飛んでいくシーンがありましたよね?」

アメリカ「未完成の星間移動システムをうっかり使用してしまった場面ですね」
ミヤヤダイ「あのシーンこそ、この作品の核なんです。星間移動トラブルによってさだの体は分断されてしまった」
アメリカ「ええ。下半身は火星へ、上半身は地球に。あそこは作者もかなり力を入れて描いているなというのが伝わってきましたね」

ミヤヤダイ「なにせあの場面だけ英語で描写してあったからね(笑)」

アメリカ「しかも縦書きですからね。読みにくいったらありゃしないという……(笑)」



ミヤヤダイ「でね、やはりこの作品は『分断』というのがひとつ、大きなテーマとしてあるんですよ」
アメリカ「僕も同感です。さだまさしの体が二つになって、火星の下半身さだが世界と敵対していくことになる辺りはうまいなあと感心しましたね」
ミヤヤダイ「まあ、上半身さだのほうは以後排泄とは無縁の生活を送れるわけですからね。下半身のほうにも同情の余地はありました」


アメリカ「分断に絡めて言うと、後半なんかは生と死、意識と無意識、おすぎとピーコといったことが積極的に語られ始めるのも印象的でした」
ミヤヤダイ「老人ホームの納涼盆踊り大会から始まった物語とは思えないくらいシリアスだったね、後半は」



アメリカ「さて、色々と話してきましたが、最後にまだ『1Q84』を読んでいない読者の皆さんに対して何かひとこといただけますか?」

ミヤヤダイ「そうですね。来月なんですが、私の新書『完全攻略!スーパーファミコンマリオカートが発売になるので、ぜひとも読んでいただきたいなぁと思いますね」


アメリカ「はじめにも言ったとおり、1Q84という作品は多様な捉え方ができる、とても懐の広い作品です。普段あまり小説を読まないという人にこそ読んでもらいたい作品でもあります。気難しいことは考えず、ありのままに物語の渦の中に身を任せてみてください。そして心ゆくまでその物語を、あなただけの物語を楽しんでください。導き出される答えは決してひとつではありません。100人の読者がいれば100通りの物語が生まれる。自由に、感じるままに。そしてひとつの小説をめぐる冒険が終わったら、新たな冒険へと、未だ見ぬ物語へと、旅立ってほしいのです。それが私の願いです」



ミヤヤダイ「あれ? 僕の言いたいこと、全部言われちゃったな(笑)」



アメリカ「本日はどうもありがとうございました」



村上春樹「おそまつさまでした」


〜了〜